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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2025年8月号掲載

遺言を検討しよう その1

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みなさんこんにちは、FP塾講師の狩野です。前回まで「生前贈与×生命保険」として、一般的な生前贈与の考え方や留意点、また特別受益について取り上げてきました。今回からは「遺言×生命保険」として、遺言について紹介しつつ、生命保険提案のポイントについても取り上げていきます。

相続対策の一環として遺言について話を聞く機会もだいぶ増えてきました。後述する自筆証書遺言にしろ、公正証書遺言にしろ、取り扱いの件数は増えています。遺言の細かい書き方については弁護士等の専門家にゆずりますが、一般的なメリットや留意点、生命保険との親和性の高さについて紹介いたします。

なぜ遺言が必要なのか?

「うちは財産も少ないし、遺言なんて必要ない」と考える方は少なくありません。しかし、実際には財産の多寡にかかわらず、相続を巡るトラブルは多発しています。家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の約7割は、遺産総額5000万円以下というデータもあり、特に一般家庭でこそ遺言の重要性は増しています。

相続に関する争いの多くは、「誰が、どの財産を、どれくらい受け取るのか」が明確でないことがまず原因として挙げられます。そこに第5回(2024年6月号)でも取り上げましたが、昨今は相続人各々のご家庭の経済的事情などが加わり、少しでも自分の取り分を増やそうとした結果、相続人間で争うことになってしまうケースが多く見受けられます。

遺言は、そうした混乱や感情的な対立を未然に防ぐための有効な手段であり、残された家族にとっても大きな助けとなります。さらに、遺言には単なる財産分配だけでなく、「想い」を託す力があります。「付言事項」と言いますが、例えば「長年にわたって介護をしてくれた長女に感謝の気持ちを込めて自宅を遺す」「今まで寄り添ってくれた妻に感謝として金銭を贈る」といった、法律だけでは実現しにくい意志を形にできます。付言事項自体は法的効力はありませんが、こうしたメッセージは相続人の精神的なケアとしても機能します。

遺言の概要

遺言にはどんな種類があるのでしょうか?一般的には3種類あります〔表〕。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類ですが、秘密証書遺言は作成件数が少ないため、実務上、お客様に話をする際には自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらかになります。

〔表〕一般的な遺言の種類

  自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
概要
遺言者が、財産目録等の
一部を除き、全文を自書して
作成する遺言
2名以上の証人立会いの下で
公証人に作成してもらう遺言。
遺言自体は公証役場に保管
内容を秘密にしたまま、
存在のみを公証人に
証明してもらう遺言
メリット
費用がかからず、または
低廉な費用で作成することが可能
  • 不備や紛失リスクがない
  • 内容について相談できるので、
    事前に遺留分等に配慮できる
  • 自筆証書遺言と違い、全文
    パソコン等での作成が可能
  • 内容を知られることがない
デメリット
財産目録以外は全文自書する
必要があるので負担が大きい

〈法務局の保管制度を利用しない場合〉

  • 家庭裁判所による
    検認が必要
  • 形式に不備があり、
    無効になるリスクがある
  • 紛失リスクがある
  • 公証役場にて費用がかかる
  • 信託銀行等を通じて
    作成する場合、
    作成の手数料がかかる
  • 公証役場にて費用がかかる
  • 家庭裁判所による
    検認が必要
  • 形式に不備があり、
    無効になる可能性がある
  • 保管は自分なので、
    紛失のリスクがある
備考
自筆証書遺言書
保管制度を活用し、
法務局に預けることが可能
平成26年4月から公正証書
遺言のデジタルデータ化が
行われている
公正証書遺言に比べると、
作成件数が少ない
(年間100件程度)
◎スマホでは表を横スクロールできます。

信託銀行や弁護士等の専門家と遺言を作成する際には公正証書遺言が多いです。公正証書遺言は公証役場というところに被相続人が出向き、2人以上の証人立ち合いのもと公証人に作成してもらう遺言です。自分の希望さえ伝えられれば、細かい文章は全て公証人という専門家が作ってくれますので、不備がありませんし、遺産の分け方でお悩みであれば相談も可能です。また、作成された遺言の原本は公証役場で保管されますので、紛失リスクもありません。公証役場に支払う手数料や、専門家を通した場合に専門家に支払う事務手数料等は相応にかかりますが、安心感という点では公正証書遺言が良いでしょう。

自筆証書遺言は、基本的に紙とペンがあれば書けるので費用がかかりませんし、公証役場にわざわざ出向く必要もありませんので、作成するハードルは低いです。その代わり、財産目録以外は自書しなければいけません(財産目録に関しては法改正でパソコン等自書以外での作成が認められました)。高齢であればあるほど自筆で文字を書くことが困難な方がいらっしゃいますが、現状はビデオメッセージや声での録音による遺言は法的効力を持ちません。また、一般的には素人が書くことになるので、法的な形式不備で無効、または遺言の内容があいまいでその解釈を巡って争うということも起こり得ます。さらには、相続発生後に「検認」といって、家庭裁判所に「確かにこの遺言は被相続人本人が書いたものだ」という確認を行う必要がありますので、相続発生後に手間がかかります。

一般的には安全性等に不安が残る自筆証書遺言ですが、令和2年7月から法務局による保管制度がスタートしています〔図1〕

これは遺言者が書いた自筆証書遺言を法務局が預かってくれる制度で、保管自体は3900円と低コストで行うことが可能です。よって、公正証書遺言と同様、紛失リスクはありません。

また、保管する際に法務局の職員による確認が行われますので形式不備は避けられますし、保管時に本人確認を行いますので相続発生後の検認作業も不要となります。

財産の種類がそこまで多くなく、分け方も複雑でなければ法務局による保管制度も検討してみましょう。

遺言でできること&できないこと

遺言は、「自分の財産をどのように、誰に引き継がせたいか」という意思を具体的に形にできる法的文書です。遺言で可能なことは多岐にわたります。代表的な内容には以下があります。

一方、遺言であっても制限される事項も存在します。

例えば、相続人の「遺留分」は民法によって保障されており、これを侵害するような内容の遺言はトラブルのもとになります。遺留分については次号で取り上げたいと思います。

遺言ではカバーできない資金準備に生命保険

遺言の一般的なメリット等はご理解いただけましたでしょうか。相続人各々が自分の権利を主張するようになっている昨今、今後は遺言による相続対策はますます重要となっていきます。しかし、遺言にも留意点があります。それは「遺言を書いたからといってお金が降って湧く訳ではない」ことです〔図2〕

例えば、相続税がかかるご家庭で、遺言によりスムーズに遺産分けが進んだとしても結局納税資金が足らなければ相続人が困ってしまいます。また、第8回(2024年10月号)で取り上げましたが、遺産分割のパターンとして代償分割(不動産等まとまった財産を特定の相続人に相続させる代わりに、他の相続人に金銭等を支払って遺産分割のバランスを取る手法)をしたい場合、不動産等を相続する代償として他の相続人に支払う代償交付金を支払えなければやはり相続人が困ってしまいます。そこで生命保険です。

生命保険は「受取人固有の財産」として、相続人に名前を付けてお金を遺すことができます。行き先が決まっている財産なので、原則遺言に記載する必要はありませんし、保険金請求には他の相続人の同意も不要です。この特性を利用すれば、上記のような資金問題も解決でき、「実質的な公平」を図ることができます。結果として円満な遺産分割の実現可能性が高まります。

相続対策は何か1つだけ行えば終わりというものではありません。生命保険と遺言は、それぞれにメリットがあり、両者を組み合わせることでより盤石な相続対策が可能になります。なお、相続対策は高齢になってから行うイメージがありますが、高齢になればなるほど加入できる生命保険は限られますし、高齢になればなるほど正確に自身の意思を書き遺すことが難しくなります(認知症になったら通常遺言作成は難しくなります)。よって、「元気なうちから書き遺すものが遺言である」と考えていただき早めの相続対策をお勧めいたします。

8月はお盆のシーズンです。久しぶりに家族と顔を合わせる方も多いでしょう。万一の際に遺された家族の間に「争い」ではなく「感謝」が生まれるように、相続対策としての遺言と生命保険を今こそ検討してみてはいかがでしょうか。

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