老々介護に際して最初に備えるセーフティーネットについて述べた
前回に続き、今回は、その後の対策の留意点について考えます。
相反する価値観の両立を考える
要介護の不安を抱える親の暮らしを考えることは、如何に相反する2つの生活を両立させるかを考えることに他なりません。
すなわち、これまでの生活の延長線上である「自分らしさ」や「自由で尊厳ある暮らし」の維持と、心身の衰えへの補助や火の不始末等による事故への不安を軽減させるための「安心の確保」といった、異なる価値観の両立といえます。
介護が必要になっても、できる限り、生活環境を大きく変えることのない在宅介護を選び、やがて、集団生活ゆえ「自由」は減るものも、「安心」を優先した施設介護に移行するケースが多いのも、こうした心情からくるものなのでしょう。
その在宅介護が重くなった場合、訪問介護の頻度を増やす策も考えられますが、24時間365日ヘルパーを確保するという非現実的な策を講じない限り、キリがありません。むしろ、介護保険の1割等負担の利用上限回数を超えてでも、自己負担で毎日のようにデイサービスやデイケアの利用を検討すれば、家族の日中の負担を減らす有効策にもなり得ます。
とはいえ、一生で使えるお金には限りがあります。在宅介護の準備にお金を使い過ぎてしまうと施設介護への移行期に資金が不足する可能性もあり得ます。
過保護なリフォームは要注意
実家の在宅介護で真っ先に思いつくのは、リフォームや改築です。自宅のバリアフリー化や各所への手すりの設置などが考えられますが、リフォームや改築のやり過ぎは、実は健常な身体部位を弱らせる羽目にもなり兼ねず、逆効果になることもあります。
例えば、目に見える大きな段差はあえて残すくらいが健康維持に役立ちます。むしろ家庭内の転倒事故で注意すべきは、目に見えぬミリ単位の段差や、滑りやすく夜間に見えづらい階段や廊下です。
絨毯を変えたり、要所に滑り止めテープや蛍光テープを貼ったりするだけでも、有効な転倒防止策になります。また、介護ベッド、生活の動線上への最小限の手すり、歩行補助用具等は、最初から購入するのでなく、使い勝手を試したり、心身の変化に合わせて柔軟に変更できたりする貸与(レンタル)中心で様子をみながら準備するのが無難でしょう。長く暮らしてきた家なのですから、時間と共に慣れてくることもあるやもしれません。
さらに、老朽化した住宅の耐震補強工事や2階部分を除去する減築等も検討に値しますが、施設介護への住替えの可能性も考えるなら、預貯金だけで賄うのではなく、他の方法も考えられます。
子世代としては、実家を相続することで資産を得る価値より、それ自体では経済的価値を生まぬ実家を担保に新たな融資を受けてでも、親の生活の充実を望む場合もあるでしょう。実家を住みやすくするための費用や、施設等への住替費用の財源としてリバース・モーゲージやリース・バック等の活用も検討に値するでしょう。
二世帯住居への建替えも注意を要します。いまは必要であっても、次世代以後にも二世代居住のニーズがあるのかを落ち着いて考えるべきです。将来的に住宅を人に貸すことを視野にいれるのなら、使い勝手の悪い二世帯住宅では借り手がつかない可能性もあり得ます。
家族の負担を極力減らし、これまでどおりの生活を送れるよう、お金を使う場を慎重に判断すべきです。
住み替えは一度とは限らない
近年、駅近のコンパクトマンションや健康型シニアマンション、地方移住等のニーズが旺盛です。住替え後の快適な暮らしを描きやすいからでしょうか。
ですが、要介護期に在宅介護か施設介護か、あるいは在宅からいつ施設への移行の選択を迫られるのかは、いったん住替えをした場合でも同じです。終の棲家選びは一度とは限りません。
人生の最晩期はイメージし難く、要介護期の住まいの移行のタイミングを図るのも困難です。しかし、近視眼的に対応せず、思わぬ落とし穴に嵌らぬよう、家族で余裕を持って一緒に考え、価値観を共有しておくことが大切です。
不確実な将来へ備える方法はいくらでもあります。入所した施設が自分に合わず転居先を探す羽目になるという不幸もよく耳にします。そうならないよう、健康なうちから家族で施設をいくつか見学したり体験宿泊を経験したりするのも、賢明な方法のひとつです。
子に任せず、人生の最期までをデザインし生き切る方も少なくはありません。ですが、子が親のエンディングプランに干渉すべきでない理由も存在しません。
たとえ認知機能が衰えた後も、最期まで親らしい生活を、子も共に考えるようなありかたに希望を感じます。
PROFILE
井上 信一(いのうえ しんいち)
価値生活研究室 代表
CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
FPとしては、個人向けFP相談、法人・個人向けのセミナー・講義、労組・福祉会等の発行する福利厚生冊子執筆のほか、企業のリスクマネジメント・福利厚生設計支援、各種コラム執筆や書籍監修にも多数従事。
また、進展する超高齢社会を前に、「介護の不安を軽くするための暮らしと住まい」を支援すべく数多くの高齢者施設の見学会や情報発信等の企画も開催。成年後見人として、地域社会への貢献活動も行っている。


