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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2026年8月号掲載

【法人編】借金は銀行からだけではありません。役員借入金

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みなさんこんにちは、FP塾講師の狩野です。前回の相続対策に強い生命保険【法人編】では、借入金に紐づく話として連帯保証について取り上げました。今回も借入金について取り上げますが、少し毛色が違います。借入の相手先が社長だった場合を考えます。 法人保険の提案を行う際、経営のバランスシートを確認すると「役員借入金」という科目が計上されているケースが少なくありません。この役員借入金は主に社長自身が会社に貸し付けた資金であり、相続対策という観点からも見過ごせません。今回は、役員借入金の基本的な仕組みと相続上の留意点、そして生命保険を活用した対策について解説します。

役員借入金とは

役員借入金とは、会社の資金が不足した際などに、社長(役員)が自分の個人資産を会社に貸し付けることで生じる負債科目のことをいいます。創業初期などは日々の資金繰りが厳しく、また社長にとっては会社の財布と個人の財布を同じものとして扱っていることも多いため、自身の財産を会社に入れることはよくあります。ただ、経理上は会社の貸借対照表において「短期借入金」または「長期借入金」の内訳の一つとして計上されます(社長個人の側から見ると貸付金)。社長自身にとっては、特に返してもらうつもりのないお金でも、経理上はどこかで返済しなければならない資金となります。

役員借入金が発生する典型的なパターンとして、次のようなものがあります。

● 会社設立当初の資金が不足し、社長が運転資金を立て替えた
● 赤字が続き、社長個人の蓄えから資金を補填した
● 社長の役員報酬の一部を会社に留保した(未払い役員報酬が蓄積した)


このように、役員借入金は「銀行からの融資」とは異なり、社長自身の財布から会社へ流れ込んだお金です。中小企業の規模によっても異なりますが、数百万円から数千万円に及ぶこともあります。

役員借入金の留意点 「社長死亡時に相続財産となる」

役員借入金の問題点は、社長が死亡した際に現れます。会社に対する貸付金は社長の個人財産です。したがって、社長が亡くなると、この貸付債権は相続財産に含まれることになります〔図1〕

◎スマホでは図を横スクロールできます。


例えば、社長が会社に3千万円を貸し付けていた場合、その3千万円は相続財産として評価されます。会社の資金繰りが苦しく実質的に返済が困難な状態であっても、「貸付金」として額面通りに評価されるケースがほとんどです。もし、相続人が会社経営に関与していない方の場合、多額の貸付金が相続財産として課税対象に「突然」加わった感覚となり(その分、相続税額も増えるため)、相続税の支払いに苦慮するケースも考えられます。そのため、会社側に返済を求める相続人も出てきます。しかし、会社側も経営に関与していない相続人から突然「返済してほしい」と求められても、社長が亡くなって売上が下がっている中で、資金繰りが立ちいかなくなるリスクがあります。

相続人の中に後継者等の会社関係者がいれば、会社に関係がある相続人に貸付債権が相続されるようにすれば上記の問題は回避されますが、遺産分割協議の行方次第ではそう上手くいかない場合もあります。可能であれば、あらかじめ返済手段について相談しておいた方がよいでしょう。

役員借入金の返済対策

①売上から順当に返済する
会社の利益から役員借入金を順次返済していく方法です。最もオーソドックスな手法ですが、相応に時間がかかります。

②役員報酬を減額し、その差額を返済原資に充てる
社長の役員報酬を意図的に減額し、その分を役員借入金の返済に充てる方法です。この場合、会社から社長への支払いは「報酬」ではなく「借入金の返済」となるため、社長個人の所得税・社会保険料の負担を軽減しながら、役員借入金の圧縮を図ることができます。イメージとしては今まで100を報酬として払っていた分を、報酬70、返済30と社長に払うお金の内訳を変えるイメージです。
ただし、報酬を減らす分、会社経費も減るため、一般的には法人税額が増える要因となります。一方、役員報酬を減額した場合、老齢厚生年金を受給中(または受給予定)であれば、報酬の金額によっては「在職老齢年金」の支給額にプラスの影響が生じる可能性があります。詳しくは次の章で解説します。

③生命保険の死亡保険金で一括返済する
社長に万一のことがあった際に、会社が受け取る死亡保険金を原資として役員借入金を一括返済する方法です。「万一のタイミング」は最も資金が必要になる時点でもあるため、生命保険の活用は理に適った対策といえます。この方法については、改めて後述します。

④債務免除をする
社長が会社に対して借金返済を免除することを債務免除と言います。債務免除をすると、会社としては借入金の返済をしなくてよくなるので、一気に借入金を圧縮できます。またキャッシュも不要なので非常に手軽な方法のように見えます。しかし、会社としては借入金を返済しなくてよくなった分は、「債務免除益」という利益になり法人税の課税対象となります。さらに、詳細は省きますが、債務がなくなったことで純資産が相対的に増加することになりますから、自社株の評価額に影響を与えます。社長以外にも株主がいるような場合、急に上昇した株価の価格分は「みなし贈与税」が課税されるリスクがあるので、検討する際には必ず専門家等にご相談ください。

給料を減らした場合の在職老齢年金への影響

前述した通り、役員報酬を減らすことで、在職老齢年金にプラスの影響を与えることがあります。在職老齢年金とは、老齢厚生年金を受給しながら働く高齢者について、一定額以上の報酬を受けている方は、年金の一部または全部が支給停止となる仕組みです。実際の支給停止額は次の計算式で決まります〔図2〕。

◎スマホでは図を横スクロールできます。


総報酬月額相当額とは、毎月の給与(標準報酬月額)に直近1年間の賞与額を12で割った金額を加えたものです。基本月額は老齢厚生年金の金額のみです。老齢基礎年金は入らないので注意しましょう。令和8年4月以降、支給停止基準額が65万円に改定されたため、例えば社長の標準報酬月額が55万円、厚生年金月額が15万円の場合、合計70万円となり、65万円を超える5万円の半分、すなわち2万5千円が支給停止となり、老齢厚生年金額の支給額は12万5千円となります。

逆に言えば、役員報酬の減額によって、標準報酬月額が下がれば、在職老齢年金の支給停止額が減少し、年金額が増える可能性があります。前述した会社の役員借入金の返済対策と合わせれば、役員報酬を下げて年金の支給額を増やしつつ、報酬を下げた分は会社から借入金の返済として受けることにすれば、社長の報酬によっては、手取りを増やせる可能性があります。しかし、役員報酬の減額等は株主総会の決議事項であり、かつ期中の役員報酬の変更は税務上のリスクがあるので、必ず専門家等と相談してスケジュール等を決めてください。

生命保険提案

以上を踏まえ、役員借入金対策として、返済プランも立てながら、社長が万一の時に相続人に一括返済できるように準備しておきましょう〔図3〕。

◎スマホでは図を横スクロールできます。


ポイントとして、1つ目は役員借入金残高を定期的にチェックすることが挙げられます。提案する保険金額は役員借入金残高を目安に設定することになりますが、役員借入金は返済していれば変動するため、定期的な残高確認と保険金額の見直しが必要です。また、2つ目は在職老齢年金との兼ね合いを確認することです。役員報酬の減額が伴う場合は、在職老齢年金の受給状況も確認のうえ、総合的な手取り収入への影響を専門家等にシミュレーションしてもらうことが重要です。報酬・年金・保険料の3者を一体で試算し、経営者にとって最善のバランスを提案しましょう。

役員借入金は、中小企業の多くが抱えているにもかかわらず、見落とされがちなリスクです。社長の相続が発生した際に初めて問題が顕在化するケースも多く、「事前に知っていれば対策できた」というケースも少なくありません。可能な限り経営者との面談時には貸借対照表の確認をさせてもらい、役員借入金の残高と対策の有無をチェックし、返済に向けた対策、そして保険活用を含めた総合的な提案につなげてください。

プロフィール

狩野 新平(かのう しんぺい)株式会社シャフト

CFP・1級FP技能士
信託銀行での資産運用相談・遺言コンサルティングや、外資系保険会社での法人・相続研修および法人・相続の案件相談業務を経て、現在FP塾の専任講師。保険FP向けに知っておきたい最新情報を毎月提供中。

FP塾HP▶ https://www.fp-school.com/

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