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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2026年9月号掲載

【法人編】第5回 事業用財産を 後継者に遺しますか?

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みなさんこんにちは、FP塾講師の狩野です。中小企業の社長さんが相続を考える時に気を付けるべきことをシリーズでお届けしています。今月からは、社長さんが避けて通れない「事業用財産をどう次世代に引き継ぐか」を取り上げていきます。経営者個人の財産には、自宅や預貯金といった一般的な資産の他に、会社の事業を支える「事業用財産」が含まれていることが少なくありません。事業用財産といっても、大きく2つあり、一般的には自社株と事業用不動産に大別されます。自社株については論点がとても多いため、来月改めて取り上げます。今月はもう一つの見落とされがちな「事業用不動産」にフォーカスしていきたいと思います。

相続財産に事業用不動産が あることで起こる問題

中小企業では、会社が使っている工場・店舗・事務所などの土地建物を、会社ではなく、社長個人が所有し、会社に賃貸しているケースが多く見られます。今でこそ、パソコン1台で起業し、ビジネスを展開するケースも普通に見られるようになりましたが、以前から事業を行っている方であれば、まず自営業として起業し、店舗等の不動産を購入し、仕事が軌道に乗ってきたら(主に税金対策として)法人成りするという流れがありました。法人成りしたタイミングでは会社が個人名義の資産を買い取るほど資金的な余力がなかったり、会社に貸していれば賃料が社長に入るというメリットもあり、不動産は個人名義のままになりがちでした。「会社の本社ビルの土地は、登記簿を見たら社長個人の名義だった」というのは、決して珍しいことではありません。
社長個人が所有する事業用不動産は、社長が亡くなると当然に相続財産になります。そのままにしていると、さまざまな問題が生じてきます。

①後継者以外の相続人へ分散するリスク
事業用不動産は、会社の事業継続に不可欠な財産です。ところが、相続が発生すると、遺産分割の対象となります。遺産分割協議の結果、後継者に引き継げればよいのですが、何らかの事情により、後継者以外の相続人(事業に関与しない子どもなど)がその不動産の一部を相続する可能性があります。
結果として引き継いだ相続人から「自分の持ち分を買い取ってほしい」「賃料を上げてほしい」などと要求され、会社の資金繰りが不安定になるおそれがあります。

②後継者に納税資金の負担が集中する
事業用不動産を後継者が単独で相続できた場合でも、その分だけ後継者の相続税負担が重くなります。事業用不動産は評価額が大きくなりがちな一方、すぐに換金しにくい性質の財産であるため、後継者が納税資金の手当てに苦しむことになりかねません。

③遺産分割の「不公平感」を生みやすい
後継者が事業用不動産を相続すると、他の相続人との間で取得財産のバランスが崩れ、不公平感が生じやすくなります。後継者に事業用財産を集中させつつ、他の相続人にも公平に配慮するためには、代償分割の原資(後継者から他の相続人へ支払う現金)をあらかじめ準備しておく必要があります。

一般的な不動産の評価方法

前述のような問題への対策を考える前に、ここで、相続財産としての一般的な不動産評価について押さえておきましょう。相続税評価をする上で、土地の評価方法は大きく分けて路線価方式と倍率方式の2つです〔図1〕

建物については、原則として「固定資産税評価額」がそのまま相続税評価額となります。一般的に土地の相続税評価額(路線価)は実勢価格(時価)の8割程度、建物の固定資産税評価額は建築費の5~7割程度といわれています。

また、事業用の土地については一定の要件を満たせば「小規模宅地等の特例」により、評価額を大きく圧縮できる可能性があります。社長個人が同族会社に相当の対価で貸し付けていた事業用宅地が「特定同族会社事業用宅地等」に該当すれば、400平方メートルまで評価額を80%減額できます。適用するためには、相続税申告期限において会社役員であることなどの要件がありますので、実際に検討する際は専門家等にご相談ください。

◎スマホでは図を横スクロールできます。

事業用不動産を会社が買い取るという選択肢

事業用不動産が相続でバラバラになるリスクに対処できる有力な方法が「社長個人が所有している事業用不動産を、会社が買い取る」という対策です。会社が買い取って法人名義にしておけば、社長個人の相続財産ではなくなります。これにより次のメリットが期待できます。

● 事業用不動産が後継者以外の相続人に分散するリスクがなくなる
● 会社が所有することで、事業との一体性が確保され、経営が安定する
● 社長個人は売却代金を得られ、相続財産として分けやすくなり、納税資金にも充てやすい

一方で、最大の課題は、「買い取るための資金をどう準備するか」です。事業用不動産は高額になることが多く、会社にまとまった購入資金がなければ実行できません。そこで生命保険です。これは最後の章で解説します。

また、もし社長が借入金の連帯保証人になっている場合は、個人名義の財産を法人名義にすることで、連帯保証を外せる可能性が上がります。それが「経営者保証に関するガイドライン」です。

経営者保証に関するガイドラインとは

本連載法人編第3回(6月号)の時に連帯保証債務について取り上げました。連帯保証債務があることでご遺族の方が非常に大変な立場になることを解説しました。一方で、社長が連帯保証人にならなくてよいケースもあります。どういった場合に連帯保証を求められないかを一般的な指針として示しているのが「経営者保証に関するガイドライン」です。平成26年に公表されています〔図2〕。要件の一つとして求められているのが法人個人の一体性の解消で、その例として「経営者が法人の事業活動に必要な本社、工場、営業車等の資産を個人が所有している場合は、法人所有とすること」と記載されております。つまり、個人名義の不動産を法人名義にすることは、将来的に連帯保証債務を外す布石にもなり得ます。もちろんそれ以外にも内部留保や好業績、決算書の提出などの要件がありますので、すぐに全条件が満たせるわけではないですが、連帯保証債務があるから跡を継ぐのをためらう後継者が少なからずいる昨今、後継者のことを思うなら少しでも連帯保証債務が外せるよう準備をしておくのも必要ではないでしょうか。

◎スマホでは図を横スクロールできます。

買取資金を生命保険で準備する

法人を契約者、社長を被保険者とする生命保険に加入し、契約者である法人が保険料を払っていきます。一定期間後に貯まった解約返戻金から事業用不動産の買取資金の一部に充ててもよいですし、買い取りを実行する前に社長に万一のことがあった場合でも、法人が受け取る死亡保険金を原資として、相続人から事業用不動産を買い取ることができます〔図3〕。相続人にとっては、事業用不動産が現金化されるため、遺産分割や納税資金の面で大きな助けとなります。この方法であれば、「事業用不動産を会社に集約する」「相続人に分けやすい現金を遺す」「後継者の納税資金を確保する」という複数の課題を、一つの保険契約で同時に解決できる可能性があります。



◎スマホでは図を横スクロールできます。


また、仮に不動産を後継者がそのまま相続するケースでも生命保険は役立ちます。社長が個人契約で生命保険に加入し、後継者を死亡保険金の受取人にしておけば、その保険金を他の相続人への代償金(代償分割の原資)に充てることができ、後継者に事業用財産を集中させつつ、他の相続人への公平な配慮も図れます。

社長個人が所有する事業用不動産は、会社の事業に不可欠でありながら、相続では問題となりやすい財産です。社長へ相続のアプローチをする際には、「会社が使っている不動産の名義は誰か」を確認することから始めましょう。社長個人名義であれば、事業用財産が相続財産になるリスクを説明し、その対策として会社による買い取りおよびその資金準備としての生命保険提案につなげてください。

プロフィール

狩野 新平(かのう しんぺい)株式会社シャフト

CFP・1級FP技能士
信託銀行での資産運用相談・遺言コンサルティングや、外資系保険会社での法人・相続研修および法人・相続の案件相談業務を経て、現在FP塾の専任講師。保険FP向けに知っておきたい最新情報を毎月提供中。

FP塾HP▶ https://www.fp-school.com/

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