人生の三大資金は、老後、住宅、教育。先月号で取り上げた住宅資金だけでなく、教育資金にも贈与税の特例があり、最大1500万円が非課税になる。ただ、相続税対策として使われることもあり、資産家優遇の批判を受けて、税制改正によりその取扱いに厳しさが加えられている。
専用口座で無駄遣いを防ぐ
A 子どもの教育資金は学資保険などで準備する人が多いけれど、祖父などから援助を受けるというケースもよく聞くよ。
B お祖父さんにとって孫は可愛いものですからね。
A そうだね。で、祖父が孫の教育費――大学の授業料などを贈与した場合、贈与税が非課税になる特例がある。ちょっと長いけれど、正式には「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」という名称だよ。
B 直系尊属というと、親や祖父母ということですね。
A そう、親から子への贈与も対象だけど、親が子どもの授業料を払うのは当たり前なので、この特例はおもに祖父母から孫への贈与を対象にしていると考えていい。もうひとつのポイントは「一括贈与」という点だ。
B 一括贈与……。
A かりに親ではなく祖父母が学費を払ったとしても、学校に毎年、直接納めるような場合はそもそも贈与税の対象にならない。ただし、学費を超える金額を孫に与えて、孫の手元に残ったような場合は、贈与税の対象になる。この特例の趣旨は、向こう何年間分の教育費を一括していま贈与しても、つまり手元に残っていても贈与税がかからないという点にある。
B 将来の学費を先にまとめて贈与してもらうということですね。
A そういうことだね。ただ、贈与されたお金を学費以外に使ってしまったりするようなことがないように、信託銀行などに「教育資金口座」を開設して預けておくことが必要なんだ。贈与を受けた孫は、必要のつど、口座から引き出して学費を払う。払った学費については、使途が明らかになるように領収書の提出が必要なんだ。
B なるほど、無駄遣いできない仕組みになっているんですね。
A 非課税となる金額は最大1500万円で、けっこうな額だからね。
「直系尊属(親や祖父母)から
教育資金の
一括贈与を受けた場合の非課税」の概要
受贈者の 要件 |
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非課税金額 | 1,500万円まで |
期間 | 2023年3月31日まで |
使い切らずに余ったら
B 1500万円を非課税で贈与できるというのであれば、お祖父さんにとってはそれだけ相続財産を減らせるから相続対策にもなりますね。かりにもし1500万円を贈与して、それを使い切らずに残ってしまった場合はどうなりますか?
A 残ってしまうケースとしてはいくつか考えられるけど、代表的なのは、贈与を受けた孫が30歳になった場合だ。下表にもあるように対象となる受贈者は「30歳未満」とされているので、30歳になると教育資金口座は終了、ということになる。そのときに口座に残高があれば、その年――30歳になった年にその残額の贈与があったものとして贈与税の対象になる。ただし、30歳になったときに学生である場合などは学生である限り最大40歳まで延長され、終了時点で残高があればやはり贈与税の対象になる。
B 余った額には贈与税がかかるということですね。もし、贈与したお祖父さんが死亡した場合――そのときにやはり使い残しがあったらどうなりますか?
A いまは残高が相続税の課税対象になっている。
B 「いまは」というと昔は違った?
A かつては、残高があっても相続税の対象とはされていなかったんだ。だから本来の目的を逸脱して相続税対策にこの特例を使う人もいて、2019年税制改正で取扱いが厳しくなった。
B 残高が相続税の対象にされた?
A そう、ただし、2019年の改正では、贈与から3年以内に贈与者が死亡して相続が開始された場合に限って、残高を相続財産に加算することとされた。さらに、今年、2021年の改正で、「3年」の制約が外され、3年以内の贈与に限らず、残高があれば加算する取扱いに変更された。ただし、受贈者が23歳未満や23歳以上でも学生である場合は――まだ学費として使う可能性があるので、加算の対象から外されているよ。
B そうすると、いまは余っても相続税の対象になるので節税にはならない、ということですね。