会社員にとっては恒例の年末調整の時期がやってきた。書類を提出したり、生命保険料の証明書を用意したり―面倒な手続きだと思っている人もいることだろう。なんのためにこんな手続きをするのか。年末調整とはいったいなんなのか。
確定申告の代わりに
A 年末調整というのは、ひとことでいえば、会社員すなわち給与所得がある人の所得税の精算手続きなんだ。
B 精算手続きというと、確定申告みたいなもんですか?
A 確定申告とは違うけれど、確定申告に代わるもの、ということはできるよ。本来、所得税は自分で所得額やそれに対する税額を計算して税務署に届けて納税することになっている。これが翌年の3月15日までに行う確定申告だよ。自営業者など事業所得のある人は毎年、この確定申告をしているが、会社員の場合は、確定申告に代えて年末調整で税額を計算しているんだ。もっとも、会社員である本人は一定の書類などを提出すれば、あとは会社が計算してくれるから、自分で計算するわけではないよ。
B 年末調整があるから確定申告をしなくていい、ということですか……。会社員にとっては申告の面倒がなく、いいシステムですね。
A その分、会社が事務負担をしているということだけどね。
B 具体的にはどういう手続きをしているのですか?
A 会社員は、毎月の給与やボーナスから所得税が源泉徴収されて、源泉徴収された所得税は、会社が原則として毎月、税務署に払っているんだ。ただ、その額は確定した税額ではない。たとえば、Bさんの今年の所得額はこれくらいになりそうだ、だからこれくらい引いておこう、という概算額なんだ。
B それを精算する、ということですか?
A そのとおりだよ。所得税は毎年1月1日から12月31日までの所得にかかる。そこで、12月にその年の最後の給料またはボーナスを受け取った時点で、1年間の所得が確定するので、会社はその額をもとに税額を正確に計算する。そうして算出された税額と、1年間源泉徴収された額とを比較して、その差を精算する —— これが年末調整だよ。
B それでお金が戻ってきたりするんですね。
A 通常は、毎月多めに源泉徴収されるので戻ってくることが多いが、源泉徴収された額のほうが少なくて追加で会社に払うこともあるよ。
生命保険料の証明書はなぜ必要?
B ところで、年末調整の際に、配偶者の収入を記入した書類を提出したり、生命保険料の証明書を提出したりしますが、これはなんのためですか?
A 所得税は、給与の場合であれば、給与所得からさまざまな所得控除を差し引いて計算する。各種の所得控除の適用があるか、あるとすれば控除額はいくらかを確認するために、書類や証明書を提出するんだ。最近は紙の書類や証明書に代えて電子データで提出するようになっているところもあるよ。
B 所得控除というと、生命保険料控除とか、ですよね。
A たとえば、Bさんがその年にいくら保険料を支払ったかを保険会社から送られてくる証明書により確認して、保険料控除がいくらになるかを確定するんだ。配偶者の収入などを記入した書類を提出するのも、配偶者控除や配偶者特別控除の適用があるかどうか、その額がいくらになるかを確定するためだよ。
B ほかにも控除されるものがありますか?
A たとえば、社会保険料控除なども差し引いて計算する。本人分の社会保険料は会社が給与から天引きしていて、その額は会社が把握しているから、生命保険料と違って、証明書を出す必要はないんだ。
年末調整で受けられる所得控除と
そのために必要な提出書類
所得控除 | 内容 | 提出書類 |
---|---|---|
扶養控除 | 16歳以上の扶養家族(配偶者以外)が いる場合に受けられる |
扶養控除等(異動)申告書 |
基礎控除※ | すべての人が受けられる | 基礎控除申告書兼 配偶者控除等申告書兼 所得金額調整控除申告書 |
配偶者控除※、 配偶者特別控除※ |
所得が一定額以下の配偶者が いる場合に受けられる |
|
生命保険料控除 | 生命保険料を支払った場合に受けられる | 保険料控除申告書 |
地震保険料控除 | 地震保険料を支払った場合に受けられる | |
社会保険料控除 | 社会保険料を支払った場合に受けられる | |
小規模企業共済等掛金控除 | iDeCoなどの掛金を支払った場合に受けられる |
※適用に関して、納税者の所得についても一定の要件がある。
B なるほど、いろいろな所得控除を差し引いて会社が税額を計算してくれる、というわけですね。
A 書類を出すのは面倒くさいと思っているかもしれないが、税額の計算は会社がしてくれるから、確定申告に比べて圧倒的に本人の手間はかからないといえるよ。ただ、すべての所得控除が年末調整に反映されるわけではない。たとえば医療費控除などは考慮されないので、医療費控除の適用を受ける場合は、確定申告が必要になるよ。